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第36回  歩くと言う事

足は何本必要か?

人類が二足歩行を始めたのは、数百万年以上昔と言われています。随分昔と言えば昔ですが、生物が陸上に上がって生活し始めたのは、3億年前と言われていますから、四脚歩行の歴史に比べれば百分の一に過ぎません。ですから、二足歩行は数百万年の進化の結果人類が得た素晴らしい能力と言えますが、四脚歩行に比べるとまだまだ未熟で未完成の物とも言えます。また、人類は二足歩行によって手を得た結果、万物の霊長と言われるほどの繁栄を謳歌してきましたが、逆に四脚でやっていた仕事を二足で行うという無理を重ねることになり、老化による疾患や転倒による外傷に苦しむことになりました。

昆虫など外骨格動物の進化の歴史

では、足は何本必要なのでしょうか? 百足(むかで)は文字通り、百本以上の足を持っていますが、蜘蛛は八本、蝶々蜻蛉は六本足です。昆虫はその進化の歴史で段々足の数を減らし、六本脚になったようです。百足が自分の足を絡ませて良く転ばない物だと感心しますが、節足動物は昆虫に至るその進化の過程で、より効率的に動くために足の数を減らし、6本脚に落ち着いたようです。学校で学んだ幾何学を想い出してみると、平面は三点で規定されます。だから、カメラの三脚は安定し、工作で作った四脚の椅子が、がたつくのです。体を支えながら前進するためには、脚を浮かせて前に出さなければなりませんが、その間安定して体を支えているためには三脚が必要なので、支える三脚と浮かせる三脚を合わせて六本脚に落ち着いたと言う説があります。

昆虫など外骨格動物の進化の歴史   

哺乳類など内骨格動物の進化の歴史

一方、我々脊椎動物は、生まれ故郷の水中では浮力を使って体重を支える事が出来たので、脚は必要ありませんでした。ところが何を思ったのか3億年前に陸に上がった訳ですが、その際、体重を支え前に進むためには四本脚になりました。前述したように、体重を支えるだけなら三本脚で良いのですが、それでは前に足を出すことが出来ません。最初は肺魚のように体重はお腹で支え、前鰭を2本の脚として体を引きずって前進したのでしょう。その内に腹鰭を後脚として4本脚を得て、両生類のように体重を支えながら前進するようになったと思われます。しかし、最初は水中生活が主で、時々陸に上がる生活だったのでしょう。陸の上では体重を支えるのはお腹で、前進する時だけに脚で体を持ち上げ、止まれば、お腹で体重を支えます。これでは長距離を素早く移動するのは困難です。その上、四本の脚は体幹から水平に張り出していて、体重を効率よく支え、体幹を高く持ち上げる事は出来きません。しかし、やっと増やした四本脚を六本、八本と増やすほどの必要性もなく簡単でもなかったので、四本脚で止まったと言う事でしょう。 陸に上がって脚を得た脊柱動物は、重力かでより速くより長く行動するために進化を続けました。その結果、水平に張り出していた脚は、肩甲骨と骨盤と共に回旋し、体幹から垂直に伸び、より効率よく重力に抗して体重を支えるようになりました。その結果、哺乳類を頂点とする陸上動物は四本脚で陸の世界で暮らすことが出来るようになったのです。 こうして陸の世界で昆虫など外骨格動物は脚の数を減らして六本脚、哺乳類など内骨格動物は数を増やして四本脚になった訳です。それでは如何して人類は二足歩行を初めて今の繁栄を気付いたのでしょうか?

哺乳類など内骨格動物の進化の歴史