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運動と足の障害

人間は、常時直立二足歩行をする動物です。足は大地との唯一の接点として600万年掛けて進化し、優れた運動機能を獲得しました。しかし、高齢化に伴い、長期間、過大な負担を強いられる様になり、中高年の足の障害が増えてきました。

アキレス腱周囲炎

アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋が一緒になった下腿三頭筋の腱で、踵骨結節部後縁に付着し、足関節や趾の付け根の関節(MTP関節)を支点として、体を持ち上げます。これを1日1万回、30年で1億回繰り返すのですから、如何に太い丈夫な腱と言っても傷つき、炎症を起こします。これがアキレス腱炎やアキレス腱周囲炎という疾患で、腱が靴と骨に挟まれ圧迫されて起こります。腱は元々血行に乏しい組織なので、腱自体の修復力は弱く、中年以降、痛みを無視して運動を続けると、アキレス腱断裂の危険があります。痛みが出たら運動量を減らすと同時に、踵で腱を圧迫しない形状のシューズを選ばねばなりません。

アキレス腱周囲炎    

踵骨棘や足底筋(腱)膜炎

大地に密着できる柔軟性と、体重を支えて持ち上げる剛性を、兼ね備えるだけでなく、これを交互に素早く繰り返すことが出来ます。これを可能としているのが足のアーチで、弦を張った弓のように、弦を引き絞れば強い剛体となり、緩めれば柔軟性を持ちます。しかし、如何に優れた機構とは言え一億回以上繰り返せば弦にあたる足底筋(腱)膜や足底筋の踵骨付着部に微少な断裂が生じ、中年期に好発する踵骨棘や足底筋(腱)膜炎という中年期に好発し、朝一番に踵が痛む疾患を起こします。

踵骨棘や足底筋(腱)膜炎

後脛骨筋腱機能不全(PTTD)

足や趾を動かす筋肉の多くは足ではなく下腿にあり、腱で伝えられます。これらの腱は足関節で直角に方向を変えるので、歩く度に骨で擦られています。特に、足のアーチの要石にあたる舟状骨を引き上げている後脛骨筋腱は内踝の足根管と言うトンネルの中で擦られ傷ついています。その為中年になると腱鞘炎を起こし腱が切れて力が伝わらなくなることがあり、これを後脛骨筋腱機能不全(PTTD)と言います。始めは内顆部が腫れて痛みますが、進むと縦アーチが潰れる扁平足、踵の「ハ」の字になる外反、前足部が外側に曲がる外転、外反母趾、横アーチが潰れる開張足が起こり、踵、母趾、小趾の三本の柱で支えられていた足のテント上の立体構造が、内側に倒れるように崩れてしまいます。こうなると、足は変形し、歩くのも難しくなってしまいます。

後脛骨筋腱機能不全(PTTD)

モルトン病・踵部脂肪褥萎縮

踵と趾の付け根の足底部の脂肪組織はお腹に溜まる脂肪組織と異なる特殊な構造をしていて、移動性が少なく圧縮性に富んでおり、体重による強い圧力に抗して骨が床に直接衝突するのを防いでいます。この優れた脂肪組織も一億回の荷重には耐えられず、古くなった布団の綿の様に厚みが減り、分かれて、寄ってしまいます。ゴムの水枕を思い浮かべてください。十分な水が入っていれば足で踏んづけても、床にごつんと当たる感じはしません。でも、少しずつ水を抜いていくと何時か足が床にごつんと当たる様になります。布団の綿や水枕の水にあたる脂肪織が萎縮し少なくなり、荷重部から脇に寄ってしまうと骨が床にごつんとあたって痛みます。踵に起こると踵部脂肪褥萎縮、前足部ではモルトン病と言う疾患を起こします。脂肪の萎縮は長期間に徐々に起こるのですが、痛みはある日突然と起こり続くのでビックリします。

鍛錬と保護

人間は二足歩行により「手」を得て進化しましたが、4本脚での仕事を2足でになうことになり、近年の高齢化に伴って神様の補償期間が切れたとしか言いようのない疾患が増えてきました。老後までの長期間の酷使に耐える様に、子供の内に足を鍛える事も重要ですが、メタボばかり気にして足の耐用期間を早期に使い切ってしまうのは良くありません。

運動には体力と技能に見合った靴を

ウオーキング、ジョッキング、ランニングは、中年からの健康増進に最適な運動です。しかし、足の障害を防止するのには、足の裏のクッション性の補強、足関節とMTP関節の踏み替えし運動の軽減、足の縦アーチの強化が重要です。単にスポーツ・ギアーとして軽さやグリップ性などの性能だけを求めるのではなく、体力や負荷を考え、足を護る事も考えましょう。ロッカーボトムなどの踏み返しを補助するアウトソールの形状、足底のクッション性を補強するインソールやヒールカップ、縦アーチの剛性を補うシャンクや硬い厚めのソール、アキレス腱を圧迫しない踵周りの工夫やヒール高などが重要ですが、相反する要素もあるので、自分の体力、技能に合わせた靴を選び、履き分けることが重要です。